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日常から学園へ―― アンタちょっとトロいんじゃない? と言われた日

2011年02月12日 22:10

――良い子は楽園に入れないよ。
――何故? 楽園は罪に塗れているからね。良い子のままじゃ、門に近づく事すら出来ない。
――心を汚し、身体を汚し、誇りに唾を吐き、体面に泥を塗らなきゃ。
「それをすれば、楽園に行ける? 誰もが幸せになれますか?」
「そうだね。楽園が見える、一層輝いて見える。足元に広がる、糞っ垂れな現実に肩まで浸かってもう出られない」
 ごうごうと反響する風の音、トンネルの向こう側とこちら側から聞こえてくる怨嗟と罵声。旅の初め、手にかけてしまったゴブリンの幼子がぶつけたそれ以上に醜悪で、私は思わず耳を塞いだ。そんな、夢を見ました。

 現実世界に居たなら、二〇一〇年、十月一日。秋のある、日の朝でした。


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それは何時ものありふれた冒険のハズでした。


 私達、冒険者は科学万能のこの時代にあって "ここではない" どこかに呼ばれた。勇者であることを期待された異世界人。過去、禁断の召喚魔法によって呼び出された勇者達の活躍にあやかって、二匹目の鯛を狙って呼び出された哀れな捨て駒。勇者でなければ、用など無い、かと言って元の世界に帰す手立てなど、この国の人々が持ちあわせている筈も無い。


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 放り出された私達、冒険者は時に軍事力として。また、ある時は職人として生きるしかなかった。その日の糧を稼いだ体で、せめてもの慰めとして時に旅日記を綴り、心の拠り所として『この世界はオンラインゲーム コンチェルトゲートフォルテであり、全てはゲームの中の出来事。ログアウトすれば、懐かしい現実が待っている』そんな、ささやかな信仰にも似た何かが生まれました。

 その日…… 私は、姉である風姉、妹のれなと別れて廃坑に棲みついたモンスターの討伐に出かける事になっていました。当時、ファンブルグ市内では慌ただしく学者や兵隊が動き回っていて、何か普段とは違う様に感じました。
 また、いつの間にか数人の冒険者が姿を消したり…… ただしこれは良くあることで、死んでしまったり、死んでしまったりしたのでしょう。あと、奇妙と言えば、フォルテ教 (前述した、冒険者が信仰している宗教の一種) の司祭こと、通称 "GM あかみこ" と言われている彼「変革の時は近い! 大型アップデートである」などと怪気炎を上げていましたが、この宗教にあっては珍しくないので気にもしていませんでした。

 一緒に廃坑に潜り込むのは、戦斧闘士のGsさん。
 ファンブルグ市の城門を出た時、何処か二度とここに戻れないかのような、漫然とした不安がこみ上げてきます。

「れんさん、どうしたの? 早く行かないと日が暮れちゃいますよ。この間、夕暮れの鉱山で酷い目に遭ったって言ってたじゃない。」
「ああ…… ごめんごめん。いこうかー」

 なのに、この冒険が。このありふれた一日が。
 異世界から召喚された冒険者達の、最後の平穏である事に、結局誰も気づけなかったのです。


**ちょ? それってどういうこと!**
と言う方は、続きをクリック!
※URL直接指定の方はそのままスクロールしませう※

何時だって、人間が悪いんだよね。


 そんな、同じ冒険者のMさんがポツリと呟いた言葉が頭に浮かぶ。
 哀しい魔導人形が、泣くことも出来ずに啼いていた。

「これだから人間って奴は、勝手なんだ。 ……ただ、この廃坑に住み着くことの何が悪い?」

 私とGsさんが顔は思わずたじろぐ。そう、そもそも此処は廃坑。人間によって作られて、人間によって捨てられ、目の前で涙も流せない魔導人形は、遙か昔に人間に造られて打ち捨てられながらも此処で生きてる。解決することの出来ないジレンマ、現実を優先し理想に蹴飛ばす事で成り立つ生活への劣等感。呑まれたら負けてしまう。

「「こっちだって、生活かかってんのよ!」」

 かつて、行方不明の少年を助けに下水道に潜り込んだ時に感じた一体感とは違う、明確な欲望と傲慢をむき出しにして、私とGsさんは武器を取った。固くする部分など、ある筈もない魔導人形が怯えたようにピクリと動き、無表情なその外見と裏腹に叫び声を上げたのを聞いた。廃坑の最深部、声は無限に反響する。

「放っといてくれないなら、追い出すまでだ!」


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強い。打ち捨てられた年数よりも、積み重なった無念や憤激が
この魔導人形を強くしているのかも知れません。


 後味の悪い勝利をもぎ取り、地上に出た頃には一晩経ってしまっていました。
 さて、帰還呪文でファンブルグ市に戻ろうと思った正にその時。
 私達二人を、無数の王国兵が囲んだのです。


0_intro.jpg
それから、先はあっという間でした。


「剣士 卯月れん! 貴官の職位と技能を国王陛下の命により剥奪、王国令二〇一〇一〇〇六により貴官ら冒険者の身柄一切は勇者候補養成機関 "ローゼンベルク学園" 所属の学生とする。卯月候補生、Gs候補生! 武装を解除し、我々の指示に従ってもらおう」

 フォルテ教司祭の言葉が、刹那頭を過ぎった。
『そう、破壊と再生! 花と愛で、誕生を喜ぶが良い。大型アップデートは十月初頭になされるであろう!』

 これは、そういう事だったのか…… この流れでは、逆らうことも儘ならない。最近、市内に新しい冒険者が増えないのも、この学園に送られたか、はたまた。とにかく今は分が悪い。私は、尚も斧を手放そうとしないGsさんを手で制した。

「卯月候補生! 良い心がけだな、貴官の姉君と妹君も学園で待っている。さぁ、出発だ。何をグズグズしている、置いていくぞ」

 Gsさんが拳を握り締め、身を震わせている。学園までの道のりを歩く王国兵と私達。その護送の前に、王国魔導師が唱えた呪文によって今までの戦闘経験が一時的に奪われ、職位と技能は没収されてしまったのだから。
 冒険者にとって、これらは財産だ。これが無ければ、生きていないのと同じと言う人すらいる。RPG風に言えば、Lv1で技も魔法も使えない状態と言えば分かりやすいだろうか。フォルテ教の敬虔な信者であれば、こう嘆いたに違いない。

『なんだよ、この誰得新章! とりあえず、Lvとスキル返せよ!』 と。


 ――それから、少し時間が経って。ローゼンベルク学園にて


 見上げた学園本棟は大きく、いつも場違いな感覚を呼び起こしてくれる。
 生きるために、剣や杖、ナイフや斧を振るい、魔導を操って勇者では無い自分を自分たらしめるために戦う。勇者ではない私達だから手と手を繋ぐ。それだけが、この異界で僅かに見ることの出来る美しい夢。


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 どこか他人のような気分で、私や風姉、妹のれなは過ごしていた。
 ここに来てから、もう二度と着れないと思っていた学生服。練兵場での訓練風景は、父がいた駐屯地のそれにも似ていた。図書館で書架用に置かれた脚立の上に座り本を読む、妙齢の女性は今は会えない母に、影が重なるような気さえする。
 当たり前のようにあった、現実での生活。それに近い、学園と言う士官学校と高等学校が一緒になったような巨大施設。どこか満たされない、そしてあのフリーダム少女トカマクはどこに行ってしまったのか。満たされない日々の中、久々に涙目の男子生徒から依頼を受けた。

――ある生徒の、実験の手伝いをして欲しい。

 ここ、ローゼンベルク学園は、元は王国貴族や大商人の子弟を教育する場所だったらしく。今でも、そういう生徒がいる一方で、老若男女揃った冒険者が無理矢理押し込まれたのだ。カリキュラムも、それ相応に変化し、アカデミックな部門では、生徒の活動の余地が小さくなっていると、事務局の職員に聞いたことを思い出す。

 きっと絵に書いたような貴族のボンボンがいるに違いない。
 依頼を噂好きの職員から受け、第二研究室と銘打たれたそこに入ると、殺気にも似た視線と鋭い声が飛んできた。どうやら、依頼者の男子生徒と勘違いしたようだ。ここで、武装し冒険者然とした格好で出るわけにもいかない。私は魔力を流し、とっさに学園の制服に着替えるとその女子生徒の前に歩み寄った。


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意志の強そうな目、着崩した制服


 彼女は、男子生徒かと思いきや、女子生徒が入ってきた事に不機嫌さを隠そうともしない。
 ふんぞり返る彼女だけど、モノも無く閑散とした第二研究室では酷く浮いていた。


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 いや、実は貴方のお手伝いに来たんですよ。そう一言零すと、あからさまな失望の色を見せる彼女。
 しかも……


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 トロっ―― この黴びたプリンみたいな頭しておきながら、何ということを言うのですか!
 値踏みするように上から下までじっくりながめ、フンッと鼻で笑った後でコレです。一体、何様なのでしょうか。
 曰く、図書館から貴重な魔導書を借りて来いとのこと。幸い、研究棟から図書館までは歩いて数分も掛かりません。早速、行って司書さんに尋ねると、許可証が必要ですから無ければ貸せません。ええ、絶対になどと仰る。早速、名前も聞いてない彼女の元へ引き返し、慌てて聞きました。許可証は?


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偽造! 偽造だよそれは!


 生活魔法すら使えない…… とりあえず、ここで罪に問われる事は死に直結します。
 中世レベルで法が止まっているファーレン王国では、公文書偽造は死罪の判決を下されかねない重大犯罪なのです。そこんとこをこの子は分かってない! ぜーんぜん分かってないんだ。

 そうだよね、まだ学生さんだもの。お脳がハッピーな貴族様、だから命知らずにもこんな事が出来る。
 依頼者の彼女が偽造した書類で、魔導書を渡す。また鼻を鳴らし、当然ねとふんぞり返る彼女。

「アンタ、ファンブルグ市って知ってる? この国の王都なんだケド!」
「うん、知ってるよ。今度はファンブルグまで行けばいいのかな?」
「全くトロいわね、その位察しなさいよ。いい?」

 聞けば、中々入れてくれない実験機材があり、それを発注したので受け取って持ってきて欲しいとのこと。でも、発注したならいずれ配達されるんじゃないかな。思いつくまま尋ねると……


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アウトー! アウトー!


 またしても偽造。
 どうしてこの子は、こんなに罪へのハードルが低いのだろう……
 はいはい、わかりましたよ。ファンブルグの魔法屋で荷物を受け取り、そそくさコソコソと人目につかないように研究棟へ。何故か武装した兵士が守る第二研究室へともどると『あら呆れた、遅かったじゃない』とでも言いたげに、彼女がため息を付く。

「これで最後よ」

 もう一刻も早く、この場から立ち去りたい欲求を必死に押し殺す。
 私は、少し引きつった笑顔で何時ものように『なあに』と聞き返した。


6_attacktomonster.jpg
ああ、そういうのなら、やり慣れてる…… とは言いたいけど。
言ってしまえばこの縁ズルズル引きずりそうだなぁ


 樹木モンスターの樹液が材料として必要だとのたまう彼女…… でも、声もどっかで聞いたことがあるし、ここまでツンケンしていると言うことは、身内扱いされると結構素直な良い子なのかも知れない。もう、金パツンデレとでも呼んでしまおう。
 さっさといけー! と言う、声援? を貰い、練兵場の奥でのんびりしてたモスグローンに襲いかかり樹液をゲット。この辺りは、罪悪感を覚えることもなく、サクサクと森から研究室まで戻る。途中、通り過ぎる冒険者仲間にさり気無く 『金髪の気の強い女の子に、気をつけるように』 と警告するのも忘れない。

「ああ、君もあの子にちょっかい掛けられたクチか」
「じゃあ、貴方も?」
「最近見ない、トカマクちゃんとはまた違ったタイプだからね。非常識はあの子で慣れたと思ったけど、下手にマトモな思考持ってる分あの子の方が面倒くさいのかも知れないね」

 嗚呼、やっぱり地雷踏んだんだ。暗澹とした気分で、第二研究室へ歩く。
 入り口を警備する兵士さんに 『ちょっと顔色悪いぞ』 と声を掛けられるけど、ムシムシ。今そういう気分じゃないんですよ。

 樹液の入った瓶を渡すと、頬杖ついて瓶に入ったそれをクルクル揺らす彼女。
 ふぅん、と一言感心したそぶりを見せたきり、物思いに耽っている。何かを思案するその表情は、どこかさっきまでと違っていた。ひょっとして、こっちが彼女の素なのかな? そう疑うには十分過ぎる顔だった。

「よし!」

 何か、思いついたのか、私に向き直り、褒章証を目の前に突きつけて不敵に笑った。


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 金パツンデレ―― いや、セネットがそう名乗りを上げた。初めて真っ直ぐこちらを見る、その視線が何処か眩しい。思わず、こちらこそヨロシクね! 私は彼女同様、声を上げて自ら名乗ったのだった。

……現実離れした、この世界で新しい冒険が始まろうとしていることに。私は全く気づいていなかった。

 そして何より、彼女はこう言ったのを私はスッカリ聞き逃していたんだ。思えば、どうしてあの時気づかなかったのか! 彼女、セネットはまた次も! そう言っていた事に。



・終わり・




筆者あとがけ........ orz )
 お久しぶりでございます。卯月の中の人 (からっぽ) です。
 思い起こせば、このオハナシ風プレイ日記も、前回の更新は新章前でした。今回はその間を補完すべく、前説を半ば本編として書かせていただきました。文中に、このキャラクター卯月姉妹の父と母が出てきますが、あくまでオハナシの都合上の設定です。中の人 (空洞) の父母は会社員でございました。
 今までも、そして今後も、どこかで登場するキャラクタの背景に触れる機会が多いと思いますが、あくまでこの物語をテキトーに盛り上げる賑やかしだとお考え頂ければ幸いです。せっかくの大型アップデートを、このような形で暗い出来事として描写するのは気が引けたのですが、オハナシの盛り上がりを演出する上では、こんな感じであった方が、良いのではないでしょうか? などと思うわけです。
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